長年舌の痛みに苦しんできた患者様は、医師、歯科医師による投薬だけでなく、ご自身でも様々な方法を試してこられた方が多いのですが、その中でも「亜鉛不足の可能性があるから亜鉛製剤の処方を受けた」、または「亜鉛不足が原因と聞いたからサプリメントを飲んでみた」方が相当数おられます。
ただしその後の経過を尋ねてみると、ほぼ全ての方が、症状の軽減を自覚されてないと言われます。
繰り返し述べている通り、舌痛症は様々な要因が複雑に絡み合った結果として生じていますので、亜鉛不足だけで症状が生じているわけでもなく、当然亜鉛の摂取だけで改善するものではない、ということだと考えられます。
しかし亜鉛の不足が舌痛、味覚異常の一因になる可能性はあります。
不足すると舌に症状を表す可能性があるものの代表として、亜鉛、鉄、ビタミンが挙げられます。それぞれについて簡単に説明してみます。
亜鉛はタンパク合成に必要なので、不足すると傷の治りが遅くなってしまいます。
また、味覚を感じる味蕾にも必要なので、亜鉛不足は味覚障害を起こすと言われています。
鉄が不足すると鉄欠乏性貧血を起こし、舌炎を生じます。
ビタミンB群の不足で貧血になると舌炎も生じます。
また、ビタミンBの不足でも傷の治りは遅れるため痛みが生じる可能性があります。
したがってこのような栄養素が不足すると舌の痛みが出現する可能性はありますが、それよりももっと重い症状が舌以外に出現しているはずです。亜鉛不足であれば皮膚のただれであるとか、鉄、ビタミンであれば貧血であるというように。
血液検査などで明らかな栄養不足、鉄や亜鉛の欠乏が指摘された方は別ですが、大半の患者様は内科なども受診され、明らかな異常、栄養不良などはないと言われています。
したがって特定のミネラル、栄養素にしぼって製剤やサプリメントを服用することにあまり意味はありません。
それよりもむしろバランスよく、なおかつしっかり噛んで食事をするほうが舌の痛みの改善につながると考えられます。
栄養不足や偏りは特定の症状よりもむしろ、むくみや唾液の減少、ストレスの増加、免疫の低下に影響すると考えられます。
しっかり食べてしっかり寝る、これが健康的な生活の基本中の基本、ということなのです。
次回はもう一つの大事な要素、睡眠についての記事を掲載します。
口腔外科専門医
稲田 良樹
舌の痛みやしびれなど、
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※2023年11月1日新規開院