前回、前々回の記事に引き続き、舌の痛みを伴うこともある「目に見える」病気についてご説明してみたいと思います。
先に言ってしまいますが、病気ではありません。
先天性、または加齢変化による表面形態の異常です。
異常というのはむしろ言い過ぎで、直毛と縮毛みたいなもので、個人差、個体差程度のものと言って良いと思います。
「舌が割れている」、「舌が切れている」などの訴えで受診される方も少なくありませんが、炎症などを併発していない限り特に治療の必要はないと説明しています。
乾燥や擦過(こすれ)、また不潔にしていることで炎症を起こし痛みが出やすい傾向にはありますので、保湿うがいを勧める場合もあります。
舌の奥の痛みや、「腫瘍(みたいなもの)ができた」という訴えで受診される方も珍しくありませんが、これもまた病気ではなく、一種の形態異常と言えるものです。
もともと舌の奥の方(舌根部)にはリンパ組織がたくさんありますが、小学校低学年ぐらいで多くのリンパ組織は退化、縮小します。
しかしそのリンパ組織の一部はそのまま残ることがあり、舌側縁の奥に残ったものを舌扁桃と呼んでいます。
リンパ組織なので風邪などの感染症に伴う腫れや痛みで気づかれる方が多いようです。
確かに周囲の組織と違う感じで、丸く盛り上がっているので腫瘍のように感じて不安に思われるのもわかるのですが、病的なものではないので切除/検査するのも好ましくなく、説明に苦慮するところです。
ビタミンB12の不足により生じる悪性貧血や、鉄欠乏性貧血では舌乳頭の萎縮が生じ、凹凸のないつるっとした表面になり、赤みや光沢を帯びるようになる平滑舌になることが知られています。
このような場合、痛みやひりひりした焼灼感、味覚異常などが起こると言われています。
しかし実際の臨床上では、乾燥によるものなのかカンジダによるものなのかそれとも貧血によるものなのかは簡単に判断できるものではなく、問診などでこれまでかかった病気や治療など(既往歴)を十分に確認し、それでも判断が難しい場合には内科主治医への問い合わせなどを行う場合もあります。
自己免疫疾患の一種で、リンパ球が涙腺や唾液腺などを壊す病気です。
口腔乾燥が著明な場合には唾液量テストに加え、ドライアイなどの症状がないか、また経産婦に多いことが知られていますので、女性の方には出産のご経験を伺うこともあります。
シェーグレン症候群で唾液量が顕著に減少すると、当然口腔乾燥もひどくなり、そのため舌が平滑になる場合も少なくありません。
これまでに挙げた病気でも舌の痛みを伴うことがあります。
舌の痛みの原因は多岐多様に渡り、突き止めるのがいかに難しいかお分かりいただけますでしょうか。
さらに痛みを取り除くことになると、原因と考えられるものを一つずつ改善していかなければならないのです。
絡んだ毛玉を解きほぐすことに似ている、といった意味が少しでも伝われば幸いです。
口腔外科専門医
稲田 良樹
舌の痛みやしびれなど、
お気軽にご相談ください。
※2023年11月1日新規開院