舌痛症とは、舌の粘膜や組織に器質的異常、つまり目に見える病気は無いのに痛みが生じる病気です。
お断りしておきますが、ここで「目に見える」のは肉眼的に判別できるものだけではなく、「顕微鏡などで見て」診断できるものも含まれます。ただし現実的には「肉眼的には判らない小さな傷」であったりとか、「乾燥による粘膜の変化」であったりしても、診断的には「舌痛症」となってしまうこともあり、実際の境界はかなりあいまいです。
そこでここからは、舌の痛みを伴うこともある「目に見える」病気について、数回にわたり説明してみたいと思います。
ただし、たとえば癌などのような明らかに舌痛症では無いと判別できるものについては、省略させていただきます。
ワープロ機能に頼り切って自筆ではすぐには書けなくなってしまった難しい漢字であり、専門職以外の人には耳慣れない病名ですが、「とこずれ」という言葉ならご存知の方も多いと思います。
粘膜や皮膚に圧迫や摩擦などの刺激を持続的に繰り返すと、その部分の組織の血流が悪くなり壊死を起こし、皮膚や粘膜の表面がはがれ潰瘍を生じたものを褥瘡性潰瘍と呼びます。
潰瘍の部分はもちろん痛みを生じます。通常の潰瘍であれば視診で見てわかるものであり、癌などを疑う場合にも組織検査をすれば確実に診断できますので、治療としては刺激の原因になる部分を改善するだけで良いのですが、こちらの記事(口腔悪習癖について)で述べたような方には、見ただけでは判断できないような、ごく小さな褥瘡性潰瘍がたくさんできていて、そのために痛みが生じている可能性はあります。
こうした場合、異常がどこにあるかは普通には見えないので、組織検査=病変の一部を切り取って顕微鏡で確認して診断するということは不可能です。
微小な褥瘡性潰瘍が舌痛の原因の一つである可能性は否定できません。
舌苔とは舌に付着したはがれた粘膜(剥離上皮)、食物、唾液、微生物などが舌に付着したものであり、毛舌症(黒毛舌)は舌固有の器官である糸状乳頭が伸びたものであるため、厳密には区別されていますが、臨床上いずれも治療が必要なものではありませんのでここではまとめて記述します。
いずれも舌に着色を伴う毛のようなものが付着し、口臭を伴うことも少なくありません。
ただし病気と呼べるものではないので、あまり神経質に除去することは勧めておりません。
舌の痛みで受診される方の一部には、舌苔や毛舌症を気にして舌ブラシで擦りすぎて痛みが出てきた、という方もおられます。
不潔だからできるというものではなく、過度の清掃は褥瘡性潰瘍の原因ともなりますので、適度な清掃、保湿程度で十分です。
口腔外科専門医
稲田 良樹
舌の痛みやしびれなど、
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※2023年11月1日新規開院